「シャンパンよりもプロセッコの方が好き。」
・・・なーんてよく聞くのですが、そもそもこの二つを比べるのは、どうにもちょっと不公平な気がします。というのも、共通点は泡がある、ということぐらいだから。
【シャンパン(Champagne)】と【プロセッコ(Prosecco)】は、異なる醸造方法が用いられているだけでなく、個人的には、おいしく飲むために適したタイミングや場面も違うと思うのです。
そんなこと言ったって、最近は【カヴァ(Cava)】や【クレマン(Crémant)】に加えて、オーストラリアや南アフリカなど比較的新しいワイン生産国『ニューワールド』のスパークリングワインも出回っているし、何がなんだか、もうややこしいですよね。
♦︎【クレマン(Crémant)】について、詳しくはこちらも。
♦︎また、『オールドワールド』と『ニューワールド』については、こちらで少しだけ触れています。参考まで。
今回は、代表的なスパークリングワインの造り方と、それぞれの風味、どんな飲み方が適しているかなど紹介したいと思います。
シャンパンもこれ! 伝統的な『瓶内二次発酵方式』
『瓶内二次発酵方式(Traditional Method)』は、フランス語では『メトード・トラディショネル(Methode Traditionelle)』と呼ばれる伝統的な醸造方法。あの有名な【シャンパン】を造る方法でもあるため、『シャンパーニュ方式(Methode Champenoise)』と呼ばれることもあります。どのブドウ種を使うとか、どれくらいの期間貯蔵するかなどの決まりごとを少しずつ変え、世界中で同様の方法を使ったスパークリングワインが造られています。
この醸造方式で造られるワイン
代表的なものとしては、このあたり。
・フランス:【シャンパン(Champagne)】や【クレマン(Crémant)】
・スペイン:【カヴァ(Cava)】
・イタリア:【フランチャコルタ(Franciacorta)】
・イギリス:【イングリッシュ・スパークリングワイン(English Sparkling Wine)】
・南アフリカ:【 メソッド・キャップ・クラシック(Methode Cap Classique)】
また、その他の国のワインでもラベルに伝統的な醸造方法と記載されているもの。
ちなみに、オーストラリアやニュージランドでは、少し簡略化された方法とも呼べる『トランスファー方式(Transfer Method)』が使われています。同じではないので、要注意。
<ちょこっと補足>『トランスファー方式(Transfer Method)』
このあと詳しく説明する伝統的な『瓶内二次発酵方式』を簡略化した方法。
瓶内で二次発酵を行ったのち、炭酸ガスを含んだワインを加圧下のタンクに移し、冷却・濾過して新たにボトルに詰め替えます。
『瓶内二次発酵方式』の流れ
1. まず、通常より少し早めに収穫されたブドウは、一般的な方法でワインになります。ベースとなるワインを樽の中で熟成または発酵させるかどうかは、造り手次第。また、ヴィンテージやブドウ種の異なるワインをミックスするのも、このタイミングになります。
(例えば『シャンパン』と一言でいっても、造り手によって全く異なるスタイルとなるのは、この過程によるものなんですね。)
2. 次に、このワインは瓶詰めされるのですが、このとき、糖分と酵母を加えてビールの王冠のようなもので密栓します。これによって、ボトル内で二次発酵がスタート。ここで発生する二酸化炭素が、スパークリングワインの泡となるわけです。
3. 二次発酵が終わると、ボトル内には『澱』/『リー(lees)』と呼ばれる働き終えた酵母が残るのですが、ワインは、この『澱』とともに熟成されることが義務付けられています。醸造年入りでないシャンパンなら15ヶ月以上、カヴァなら9ヶ月以上というように。質の高いヴィンテージシャンパンの場合、6〜8年もの間熟成されることもしばしば。
この熟成期間によって、ワインは香ばしさやブリオッシュのような香りを持つようになります。豊かで奥深い味わいを持つには不可欠な過程で、『澱』とともに熟成される期間が長いほど、出来上がりもリッチな味わいのものになるんです。
4. その後、ボトルを少しずつ左右に回しながら逆さまに立てていいき、『澱』を瓶口の栓の近くに集めます。『ルミュアージュ(Le Remuage/英: Riddling)』と呼ばれる作業です。手で行われることもありますが、非常に手間がかかるため最近は機械化されています。短くともだいたい8〜14日はかかるそう。
5. 次に、『澱』の集まった瓶上部を凍結させたあとに開栓し、その部分のワインを取り除いてしまいます。これは、『デゴルジュマン(Degorgement/英: Disgorging)』と呼ばれ、ラベルにその日付が記載されることも。
6. そして最後に、ベースワインと糖分が少し足され、コルクで栓がされます。ここで、完成するスパークリングワインの甘さが決まると言われています。
ここまで読んでも分かるように、シャンパンをはじめ、この方式でスパークリングワインを造るのは、とっても手のかかるものです。お値段がそれなりに高いのも、納得。
ただ、この醸造方法によってしか得られない味わいがあるのも事実です。この伝統方式で造られたものは、【プロセッコ(Prosecco)】など他の方法で造られたスパークリングワインと異なり、味わいに深みと力強い酸味があります。それってつまり、食べ物と一緒に楽しめるワインである、ということ! キリッとした酸味とパワーが、幅広い料理とうまくマリアージュしてくれるのです。そう、最初の乾杯だけに使うのでは、もったいない!
また、ヴィンテージシャンパンなど、特に高品質のものは、何年も貯蔵しておくことができます。醸造年入りでないものでも、数年の間はボトルの中でさらにおいしくなることも期待できるという。
プロセッコの造り方『シャルマ方式』
人気の【プロセッコ】をはじめ【ランブルスコ(Lambrusco)】や【アスティ・スプマンテ(Asti Spumante)】は、『シャルマ方式(Charmat Method)』と呼ばれる方法で造られています。前述の伝統的な方法と比較すると、ぐっとシンプルな方法でかつ低コスト。味わいの複雑さは減りますが、一度に大量に生産することも可能です。
『シャルマ方式』の流れ
1. まず、さわやかで軽く、フルーティなベースワインが造られます。一般的には、樽熟成など複雑な行程は含みません。
2. 次に、このベースワインを糖分と酵母と一緒に密閉耐圧タンクに入れ、二次発酵をスタート。スパークリングワインの泡となる二酸化炭素が発生します。ここでの発酵期間が、完成品の品質を決めます。ゆっくり熟成させるほど、ブドウ本来のフルーツ感がたっぷりなワインになり、長く続く良い泡を楽しめるんです。
3. 二次発酵が終わると、すぐにボトル内の『澱』/『リー(lees)』はフィルターにより取り除かれます。ここも、【シャンパン】を造る方式と大きく違うところ。この方法で造られるワインが、パンを思わせる香ばしさを持たず、味わいも【シャンパン】ほどリッチでないのも、このためです。
4. 最後に、完成したスパークリングワインは、タンクから直接瓶詰めされます。
実は、『シャルマ方式』で造られたスパークリングワインは、アペリティフ(食前酒)にぴったり! 軽くてフルーティで、飲みやすい。ブドウ本来の香りを楽しむことができます。また、お財布にやさしいのも大きな魅力ですね。
【ソルバーラ・ランブルスコ(Sorbara Lambrusco)】は、生ハムなどのコールドミートと良く合うのですが、一般的には、この手のワインの繊細な風味を感じとるために、ワインだけで楽しむのがオススメです。
♦︎ちなみに、【ランブルスコ(Lambrusco)】とのマリアージュは、こちらでも紹介しています。